土曜日の朝、仏間で母が倒れていた。
料理中だったらしく、台所で鍋がかかったまま。
呼びかけに返事はするが体が動かない模様。
直ぐ119番で救急車を呼ぶ。
休日の当番病院に脳神経外科があったのが幸い。
右脳の太い血管が詰まり、あっという間に右脳のほとんどの機能が停止してしまったとのこと。
運び込まれた時間は速かったが、これでは手の施しようがないとの診断。
集中治療室に移され、今後80%の確率で起こるであろう脳ヘルニアに備えるとのこと。
脳ヘルニアとは、脳梗塞を起こした脳が膨れ上がる現象で、これが脳幹を圧伏すると脳死に至るというもの。
なので、その腫れ具合を監視するのだそうだ。
その日は、面会しても喋ることができ、右半身は動くようだった。
目は手で瞼を開いてあげる必要があるが、私の顔は認識できた。
この状態で会話が出来るのは奇跡に近いと主治医は言っていた。
二日目の日曜日、11時に病院で主治医と打ち合わせの予定だったが、早朝から呼ばれて行ってみると、思った以上に脳ヘルニアの進行が速く、このままだと脳幹が圧迫され死に至るというものだった。
前日に比べぐったりしており、呼びかけに対しても反応は鈍かった。
選択肢としては、減圧開頭術という頭蓋骨を切除して腫れた脳を外に逃がしてあげる方法か、このまま看取るかというもの。
仮に、減圧開頭をしても、意識が戻るか否かは50%の確率だという。
当然、手術を希望した。
約3時間ほどのオペだったが、とりあえず命はとりとめた。
手術は成功したが、あとは回復を待つだけ。
チューブだらけの身体と、頭から繋がっている血の管。
とても痛々しい。
呼びかけにも応じず、それでも聞こえているかもしれないという看護師のアドバイスで、家の様子等話しかけてみる。
意識が戻るまでどの位かかるかも、神のみぞ知ることだそうだ。
3日目、見舞いに行くと顔が大きく腫れていた。
頭蓋骨の大幅に切除したのだから当然であろうが、見ているだけでとても悲しい。
全身熱が引くように冷されていた。
呼びかけにも答えず、手を握っても冷たいだけで反応がない。
回復を祈るばかり。
4日目、先生とお話をし、今できることは点滴位しかないので、面会制限のあるHCU(高度治療室)から一般病棟の個室に移って親戚や知人等の見舞いを受け入れてはどうでしょうとのこと。勿論このまま HCUにいてもらっても構わないそうだ。
妹と相談し、一般病棟に移つすことにして、面会できる旨を親戚や親しい人に伝えた。
5日目、親戚と一緒に見舞うも、相変わらず意識は戻らず。右手が冷やしているせいかとても冷たい。マッサージして固くなった手を揉みほぐしてあげる。
6日目の朝、病院から電話が入り、容態が不安定になってきたので付き添いをお願いしますとのこと。
駆けつけると、尿の出が極端に減り、血圧がかなり下がってきたとのこと。
一日中紫色に変色した右手をマッサージしながら付き添うも、夕方になり急に呼吸が止まった。
ブザーを鳴らしても一向に看護士が来ないので、ナースセンターに呼びに行く。
心臓は動いているが呼吸は停止。懸案だった脳幹に腫れてきた脳が圧迫し機能を停止するという最悪の結果となってしまった。
親孝行したいときに親は無し。
親不孝な息子でした(:_;)